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よもやま話

Short Story

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  •  2018.12.01

世に飛び交う気になる言葉-虫を食べる-(その2)

 国連機関で、将来の食糧難に向けて虫を食べることを推奨する報告書が2013年に出されて以降、欧米でいろいろの動きが相次いでいます。EUでは食材としての昆虫が自由に取引できるという法令が整備され、ビジネスチャンスを見出すベンチャーが増えています。欧米において、昆虫食は全く新しい試みであるだけに、いろいろの可能性を考えた活発なベンチャーに勢いがあって、その動きは日本をはるかに越えています。

 

EUにおける「ノベルフードに関する規制」

 2018年1月1日から、EUでは一連の「ノベルフードに関する規制」が施行されました。これは2015年11月に承認され、実施に関する質疑応答がすでに公表されていました[1]。ノベルフードとは、食品のpositive listに載っていない新しい食品のことで、例えば海藻を使った食品、新しい方法で栽培された植物、改変された分子構造をもつ食品、そして昆虫が該当します。この法令の施行によって、食用昆虫や昆虫を原料にした食品が、EUで自由に取引できるようになりました。

 日本では古来より食されてきたためか、昆虫、海草などを対象にした法規制は特にないようで、EUの事情とは異なっています。最近ビジネスを展開しているベンチャーやスタートアップのいくつかをご紹介します。

 

Crické社 [2]
 二人のイタリア人によって、cricket(コオロギ) の粉末を用いたクラッカー(Crickelle™)の生産、販売のビジネスが立ち上げられました。肝心なコオロギの乾燥粉末はヴェトナム産を使っているものの、他の材料はイタリア産にこだわりイギリスで生産されています。

 基本的な方針として、コオロギを丸のまま食材にするのではなく、粉末にしてクラッカーはじめ、パスタ、デザートに練りこんだ食品として販売し、いわゆる“嫌悪感要素”を和らげています。もちろん、“brave”な人には丸ごとのコオロギを提供できると謳っています。

 ローストした場合、一番近い味はヘーゼルナッツであり、それ以外の調理ではエビに似ていると紹介されています[3]。遺伝的なプロファイルも似ているため、もし甲殻類にアレルギーがあるなら避けたほうがいいという警告も忘れていません。昆虫食を使ったディナーに参加者を募集し、愛好者を増やす活動を怠っていません。
 

Enterra feed社 [4]
 カナダの会社で、アメリカミズアブ(black soldier fly)の幼虫の乾燥品を主力製品としますが、人用ではなく、養殖魚、家禽、ペット、野鳥や動物園の飼料用です。

 この会社は小規模な段階ながら、昆虫養殖産業がその成長性のゆえに注目を集め、年商4000億ドル(約43兆円)規模の動物用飼料産業のいくつかの巨大企業から出資を得ることに成功しました。たとえば、米アグリビジネス大手のカーギル社や、飼料や農場向け機械・サービスを提供するウイルバー・エリス社、さらには穀物加工機械を製造するビューラー社(スイス)などです[5]。大手のマクドナルドは大豆タンパクへの依存度を減らすため、養鶏飼料としての昆虫活用を研究し、支援していることから示唆されるように、従来の飼料原料(魚粉、大豆など)以外のソースを探す活動を活発に展開しています。昆虫は、エンドウ、キャノーラ(菜種)、藻、バクテリア由来のタンパク質などの代替タンパクの一候補なのです。

 同様に、アメリカミズアブを養殖し水産養殖と家禽用に販売している会社にはEntocycle社[6]があります。近い将来、完全自動化のモジュール式工場でヒト用食材として製造する計画だということです。

 

Beta Hatch [7]
 ビール醸造の残りかすを餌に、ニワトリの生餌となるミールワーム(ゴミムシダマシ科甲虫の幼虫)を飼育するスタートアップ企業(ワシントン州シアトル)です。輸入のミールワームが米国市場に出回る中で、米国で初めて国内で卵から飼育し商品化しました。

 ミールワームは、水産養殖や鶏飼料用に販売されていますが、米消費者団体から、消費者に広く受け入れられるためには昆虫由来の飼料の安全性を徹底的に試験することが必須であろうとコメントされています[5][8]。人が間接的に口にするから当然の反応なのかもしれませんが、やはり米国では“嫌悪感要素”がまだ色濃いのかもしれません。

 しかしヒト用食材として昆虫に強く注目する会社もあります。Aspire Food Group[9](テキサス州オースティン)ではロボットを含むハイテク養殖施設でコオロギを養殖し、通常の三分の一の期間で五割も大きな成虫を育てているといいます。さらに、ガーナの農場に、同国で食用にするヤシオオオサゾウムシ(palm weevil)の幼虫を養殖する技術を提供しています。米国でも昆虫食の広がりを狙う会社が活発に活動しているのです。

 

 その他、ヒト用にミバエ(fruit fly)を養殖するFlyingSpArk社[10](イスラエル)、昆虫バーガーと昆虫ミートボールを国内二位の規模をもつスーパー・マーケットチェーンで販売するEssento社[11](スイス/チューリッヒ)など、多くの先進的な企業がそれぞれの虫を養殖していることがわかりました。

 日本では、伝統的な昆虫食(イナゴ、ハチノコ、蚕蛹など)を製造販売する食品会社があり、ほかに外国から昆虫食製品を輸入販売する会社(エントモ社[12]、TAKEO社[13])がわずかに散見するくらいで、外国のような先進的な製造を目指すベンチャーはないようです。

 

おわりに

 イタリア初の寿司屋がローマに開店したのは1970年代でした。イタリア人にとって魚の生食という新しくも“気味悪い”食べ方が定着するのに30年かかりましたが、虫食いの習慣は、それよりずっと早く一般化するのかもしれないとの論評があります[14]。虫食いに伴ういわゆる“嫌悪感要素”は、魚の生食より小さいのかもしれないということです。

 日本では魚の生食、鶏卵の生食、タコ、海草が好んで食され、一方、フランスのミモレットチーズは寄生したダニによって熟成され、イタリアのカース・マルツゥ[15]は蝿の蛆虫によってペコリーノ・サルドというチーズを熟成させたものです。食のゲテモノというのは単に文化の違いに過ぎないのかもしれません。

 特に、カース・マルツゥに住み着き無数にうごめいている蛆虫は、長さ8ミリメートルにも成長し、半透明で白く、触ると15センチメートルも飛び跳ねるため、チーズと一緒に食べるときは目を保護することが推奨されるそうです。蛆虫を噛み潰すとプチュッといって、クリーミーでジューシーな味わいが口中に広がり、グルメの絶賛するところのようです。このあたりは、日本の白魚の踊り食いといい勝負かもしれません。

 


[1] Questions and Answers: New Regulation on Novel Food Brussels, 16 November 2015
http://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-15-5875_en.htm 
[2] https://crickefood.com/
[3] コオロギを食品にするスタートアップが描く「新しい食生活」──クラッカーからパスタ、デザートまで開発
https://wired.jp/2018/01/31/cricketfood-from-italy/

[4] http://www.enterrafeed.com/
[5] マクドナルドも熱い視線送る「昆虫農場」 世界のタンパク質危機を救うか Newsweek https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/04/post-10038.php
[6] https://www.entocycle.com/ 
[7] http://betahatch.com/ 
[8] 20年以内に、人々の主要なタンパク源は昆虫になる──食糧危機の解決策 Newsweek https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/11/20-39.php
[9] http://aspirefg.com/
[10] https://www.theflyingspark.com/ 
[11] https://www.essento.ch/ 
[12] https://entomo.jp/ 
[13] https://takeo.tokyo/
[14] 2018年、EUで「昆虫食」の取引が自由化──イタリア人は食べる準備ができている
https://wired.jp/2017/08/13/italian-ready-insect-food/
[15] カース・マルツゥ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%83%84%E3%82%A5

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