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よもやま話

Short Story

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  •  2018.03.15

創薬ベンチャーの知財戦略

ベンチャーの中での知財の役割

 創薬ベンチャーが知財を考える上で重要なのは、大企業とベンチャー企業では求められている戦略が異なるということです。それを認識せず、大企業のフォーマットをそのままベンチャー企業に持ち込んでも機能しません。

 まず、リスクに対する考え方が異なります。大企業はリスクヘッジの思考パターンで、法的安定性を重視しますが、ベンチャーはリスクコントロールの思考パターンを取ります。製薬企業とライセンス契約交渉の場でも、ポジティブな発想でベネフィットがあれば多少のリスクは受け入れます。同時に、リスクを取りながらも戦略的にリスクの少ないアレンジをつくっていく創造性もまた求められます。それと、ベンチャーはスピードが命です。問題が発生したら、すぐに議論して即座に解決策を見つける、常に経営に寄り添う知財が望ましいのです。
 
 次に、知財経営は知財をベースに考えるのではなく、むしろ経営に関する多くの情報をベースに戦略を考えます。従って、創薬ベンチャーで知財戦略を考える人は経営者と密接なコミュニケーションを取る必要があります。

 さらに、技術をベースに知財戦略を考えることも大切です。技術の特性や技術に関する情報が重要なので、知財の専門家にも、そのベンチャーが扱う技術分野に関する専門的な知見が求められます。いろいろな分野を取り扱うがバイオに強い、というだけではやや不足な面もあります。ことIT、バイオ、医薬品に関しては、技術やサイエンスをベースに知財戦略を考えていかないと最後に破綻する危険性がありますし、同時に医事法やレギュレーションの知識、プラス、グローバルな情報も知財戦略として必要になります。

 

知財の人材

 ベンチャーにおいて法務、知財の人材を育成し、業界を活性化するためには、インセンティブの付与が必要です。特にベンチャー企業が優秀な知財担当者を採用する場合には、大企業のような待遇、また、高額な報酬は出せないので、エクイティやストックオプションの活用、リモートワークを含めた働き方のフレキシビリティなど、報酬だけではないさまざまな方法で人材をこの世界に引きこんでいくことが大切です。

 加えて、創薬系スタートアップの創業期には特有の課題が存在します。よくあるのは、人、物、金のリソースの不足です。特に知財に関して言えば、優秀な知財担当者は少なく、友人・知人など信頼できる人脈を通して幅広くサーチする中で、一端、採用できたら組織は小さいけれど信頼関係で結ばれた強固なチームをつくることが重要です。

 

知財の今後

 出願戦略に関しても、アーリーな段階での特許出願が基礎となることが多いため、医薬特許として練り直す必要があることが多く、さらに、幅広い特許としていくために、国内・外国弁理士とどんどんコミュニケーションして、よいものをつくっていくことが必要です。

 

 普通、創薬スタートアップは、主に日本市場をベースに日本の顧客を相手にビジネスを展開します。そうすると忘れがちなのが、特許というのは世界的だという点です。海外の競合会社が特許を取っている、あるいは既に出願済みかもしれないという問題が起こります。

 自分のターゲットが日本国内であろうと、世界を基準にしっかりリサーチをして、将来コンペティターが現れないように、あるいはブロッキングパテントが現れないように注意することが重要です。さらに言えば、自分たちも成功すれば世界に展開していくわけですから、早めに海外での出願に着手しておく、そういう先手を打った知財戦略が大事かと思います。

 

 大学発ベンチャーの課題としては、大学側の担当者が異動で交代することで、知財戦略や出願に関するノウハウや約束が継承されないことが挙げられます。これは大きな悩みで、知財担当者の大学での任期を長くし、期間をオーバーラップさせてノウハウや実務慣行が継続できるような仕組みをぜひ考えてなくてはいけないところだと思います。

 また、大学との契約でライセンスの対価としてストックオプションの付与が難しい場合があります。これも1996年頃から言われていますが、現在でもまだ課題があるので、資金の面で厳しい環境にあるベンチャー側からは是非検討して欲しいところです。

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